人工関節やボーンスクリューなどの医療機器には、ステンレス鋼、チタン、コバルトクロム材といった加工が難しい材料が広く使われています。ボーンスクリューは、機械強度と生体適合性に対する厳しい要件のためにステンレス鋼またはチタン合金でできており、人工関節の材料にも高強度・耐摩耗性・生体適合性が求められるとされています。こうした部品では、難削材を相手にしたねじ加工でも安定した品質を確保することが重要になります。
また、医療機器のねじでは、精度に加えて洗浄性や記録(トレーサビリティ)も重視されるとされています。ねじ山の谷や止まり穴の奥は洗浄しにくい箇所として挙げられており、タップ加工後にバリや切りくずを残さない仕上がりは、洗浄工程の負担を左右する要素の一つといえます。
※参照元:株式会社タンガロイ「医療機器産業 - 人工関節&ボーンスクリュー」(https://tungaloy.com/jp/industries/medical_artificial-hip-joint_bone-screw/)
※参照元:FPAサービス株式会社「医療機器のネジに求められる条件|精度・洗浄性・生体適合性」(https://fpa-s.com/医療機器のネジに求められる条件|精度・洗浄性/)
田野井製作所の改善事例ページには、Ti-6Al-4V製の医療機器部品(ねじサイズM6×1)のタップ加工で、折損が多かったスパイラルタップから転造タップへ切り替えた事例が掲載されています。課題として「下穴余裕がない」ことも挙げられています。
加工条件は、立型マシニングセンタ(BT40)、回転数1000rpm、内部給油圧なし、不水溶性切削油(塩素フリー)で、使用タップは標準品の転造タップ「SL-TF 1C」です。結果として、ワークを無駄にすることなく安定して加工できたとされ、納入先にも満足されたと紹介されています。事例名にあるとおり、食付き部が1ピッチという条件でも安定加工につながった点が特徴です。
※参照元:田野井製作所公式HP「改善事例」内「Ti-6Al-4V医療機器部品を食付き1ピッチでも安定加工」(2026年10月2日確認)(https://www.tanoi-mfg.co.jp/improvements)
外科インプラント用の金属材料の規格には、チタン、チタン6-アルミニウム4-バナジウム合金、コバルト-クロム-モリブデン合金、ステンレス鋼などが挙げられています。なかでもチタンは、熱伝導率が小さく切削熱が刃先に集中しやすいうえ、ヤング率が鋼のおよそ2分の1と小さく変形しやすいため、刃先が高温になると工具との熱化学反応で摩耗が進みやすいとされています。
こうした材料のタップ加工では、被削材に合った工具材質・コーティングの選定に加え、切削速度や切削油といった加工条件の見直しが、工具寿命と安定性を左右します。
難削材の部品では、加工の途中でタップが折損するとワークそのものを失うおそれがあります。上記の事例のように、折損が多い工程ではスパイラルタップから転造タップへの切り替えが選択肢になります。転造タップは切削を行わないため加工中に切りくずが発生しない一方、狙うべき下穴径の範囲が切削タップより狭く、管理が難しいとされています。下穴径が適正値でないと、めねじの内径を規格値内におさめられなくなるため、工具の選定と下穴管理をセットで検討することが重要です。
医療機器の製造販売業者等に適用される「医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」(QMS省令)は、ISO 13485の改正に伴い、令和3年3月26日に改正されました(令和3年厚生労働省令第60号)。同省令の適用対象は製造販売業者等で、部品加工メーカーそのものが対象として挙げられているわけではありませんが、製造販売業者等に対して、供給者の監視・再評価や、供給者が変更を行う場合にあらかじめ通知することの書面での合意などを求める規定を置いています。
そのため、部品加工の現場でも、使用工具や加工条件を変更する際の事前連絡、ロット管理や加工記録の整備などを取引先から求められる場合があります。要求内容や省令の適用関係は取引内容や取引先ごとに異なるため、事前に確認しておくことが大切です。なお、制度の最新内容は厚生労働省など一次情報でご確認ください。
※参照元:大阪府「QMS省令の改正について(お知らせ)」(https://www.pref.osaka.lg.jp/o100100/yakumu/iryoukikikannkei/qms_amendment.html)
※参照元:福岡県保健医療介護部薬務課「QMS体制省令の要点及び留意事項等について」(令和5年3月2日)(https://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/attachment/187994.pdf)
厚生労働省「薬事工業生産動態統計調査」の令和6年(2024年)年報によると、同年の医療機器の国内での生産金額は2兆6,642億円(前年比0.4%減)でした。生産金額は令和元年(2兆4,942億円)以降、2兆4,000億円台から2兆6,000億円台で推移しており、令和5年(2兆6,748億円)からは小幅な減少となりました。
なお、同統計の年報は調査年の翌年12月末までに公表される予定とされ、令和7年分は本稿の作成時点(2026年10月)では未公表です。上記は令和6年時点の数値であり、最新の動向は今後の公表内容をご確認ください。
生産規模が大きく変動しにくい一方で、部品加工の現場には、難削材への対応、洗浄性への配慮、記録・変更管理への対応といった要件が重なっています。こうした条件のもとでは、折損しにくく加工結果が安定するタップを継続して使えるかどうかが、現場の対応力を左右する要素の一つといえます。
※参照元:厚生労働省「令和6年(2024)薬事工業生産動態統計年報の概要」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/yakuji_nenpou_all.pdf)、厚生労働省「令和6年薬事工業生産動態統計年報(令和7年12月24日公表)」報道発表(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67099.html)
※参照元:厚生労働省「薬事工業生産動態統計調査(2019年1月分調査以降)」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/105-1.html)
難削材への対応力と、折損しにくい安定加工、洗浄性・記録管理への配慮が、医療機器の部品加工現場に求められています。
当サイトでは「切削トラブル」「耐久性」「加工精度」など、現場で起きやすい悩みに合わせて、各メーカーの製品情報を整理しています。製品選びに迷った際は、ぜひ「タップメーカー3選」をご覧ください。


